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Pick up Topics~千葉銀行~(2015年5・6月号)
「ブランドデビット」を地方創生の一助に
千葉市の「プレミアム商品券」に採用

個人営業部 調査役
尼野俊一氏
千葉銀行が2014年10月に発行を開始した「ちばぎんスーパーカード<デビット>」は、国内初となるJCBブランドのデビットカード。同行では2005年からクレジットカードの「ちばぎんスーパーカード」を発行しているが、ブランドデビットを投入した背景には、10年に及ぶクレジットの経験と成果があった。
銀行として決済カードを発行する意義は、収益性に加えて囲い込みツールとしての効力がある。特に重視しているのは若年層。10代や20代前半のうちから顧客としてしっかり掴むことができれば、後に住宅ローンや教育ローンを組む年齢になった際にも、その口座を使ってくれる確率は高いという。
千葉銀行 個人営業部 調査役の尼野俊一氏は、「若い世代の方が開設する口座は、給与振込や公共料金の引き落としなどが組まれていると継続的に利用されやすいのですが、何もないと数年で不稼働口座になってしまうことも珍しくありません。ただ、学生さんは給与振込はないですし、世帯主以外の口座は公共料金の引き落としもない。こうしたユーザー層に対し、継続的に口座を“動かす”ためのツールとして、クレジットカードが有効だったのです」と説明する。
クレジットは成果を上げてはいるが、18歳未満には発行できなかったり、“借入”のイメージから敬遠する人も多いという課題もあった。そこで、若年層(ブランドデビットは中学生を除く15歳以上)を主な対象に設定し、開設した口座に対して「メイン口座」の地位を固める新たなツールとしてブランドデビットが投入されることになった。
ポイントは1,000円に付き1ポイント(5円相当)を付与。

個人営業部 主事
後藤洋介氏
発行に際して与信が伴わないデビットは、キャッシングやリボの金利収入が期待できるクレジットに比べると収益性が低いという難点がある。千葉銀行 個人営業部 主事の後藤洋介氏はこの点に関して、「サービスの開始前、デビットの決済単価と稼働率はクレジットより低いと想定していたのですが、実際に発行してみるとクレジットと比べても遜色はありませんでした。しかも、デビットは入会審査や利用明細書送付などの運用コストが抑えられますから、収益的にはクレジットと乖離したものにはなっていません」と明かす。
同行では、デビットにもポイントサービスや付帯保険を用意し、ポイント還元率などはクレジットと同等にしている。
「商品性の面で見劣りがすると、デビットの売り方が難しくなる」(尼野氏)というのがその理由だという。また、同等の商品性を維持すれば、クレジットを申し込めない、あるいは持ちたくないユーザーに対しても、クレジットと同レベルのサービスを備えた商品としてアピールできる。
デビットの発行開始からまだ1年弱だが、二つのサービスの“分布状況”は良好のようだ。「当初は、既存のクレジットカード会員が即時払いをしたいときの選択肢としてデビットを持つケースも多いと予想していましたが、実際の重複保有は予想よりも少数です。デビット会員の6~7割はクレジットカードを持たず、その多くは若年層かリタイアした世代の方。これは、われわれの想定に近い形と言えます」(尼野氏)
カード会員の獲得チャネルは、Webが10~15%程度で、ほとんどが店頭申込となっている。ここは地方銀行の個性が出る部分でもある。銀行の主戦場は店舗。そして、地銀の強みは地域に拡がる支店網だ。千葉銀行の支店は県内に160カ所もあり、この点ではメガバンクも遠く及ばない。
「県内主要駅の多くは駅前に店舗があり、都市部だけでなく郡部の方々にも決済や融資などのサービスをご提供しています。カードもその一環ですが、店舗網を生かした地域とのつながりはビジネスの基盤であり、地域経済の活性化は地銀の使命と考えています」(尼野氏)
こうした金融機関としての特性と“使命感”は、「ちば得商品券」にも反映されている。
「ちば得商品券」は2015年6月19日から、1セット(500円券×24枚=1万2,000円分)が1万円で売り出される。発行枚数は25万セットで発行総額30億円。このうち1万セットがデビットカード利用分として割り当てられる。対象は千葉市に在住・在学・在勤の「ちばぎんスーパーカード<デビット>」の保有者(新規申し込みも可)。
「ちばぎんスーパーカード<デビット>」で「ちば得商品券」のサービスを享受するには、カード会員があらかじめ千葉商工会議所の専用サイトからカード番号などを入力して利用申請を行う(申し込み多数の場合は抽選)。申請が認められれば、そのカードを使って県内の対象店舗で決済すると、千葉銀行が口座の状態を照会して購入代金を利用者の口座から引き落とし、店舗に代金を支払う(図)。ここまでは、通常のJCBデビット決済と変わらないが、「ちば得商品券」のプレミアム分については、後日口座にキャッシュバックされるという流れだ。利用期間は2015年6月19日から11月30日まで。期間終了後に集計を行うため、返金が完了するまでにはタイムラグがある。
千葉銀行がこのスキームを提案した経緯については、「地方創生に向けた取組みの一環で、どこの自治体でも紙製の商品券は検討していると聞いていました。われわれはちょうどデビットのサービスを始めるタイミングだったので、紙を補完するツールとして生かせるのではないかと考えたのです」(尼野氏)とのこと。
紙製の商品券は万人に分かりやすいが、運用負担が大きい。商品券のデザイン作成から印刷、配付、販売、さらには店舗で利用された分の集計など、各工程で手間とコストがかかる。売場や販売期間が限定されるため、欲しくても入手できない人も出てくる。
デビットカードの活用は、こうした課題の多くを解消可能な方法として期待されている。

今回のデビットカードを使った商品券のスキームは、利用者にも店舗にも極力負担をかけないように工夫されている。カード会員は、対象店舗で通常通りの決済をすればキャッシュバックが適用される。店舗側の操作手順も通常のカード決済と何ら変わらず、オペレーションの追加などもない。
ただ、県内の店舗の中には、少数ながら今回のデビットによる商品券サービスの受付を見送るケースもあるという。
「ブランドデビット自体の認知度がまだ低いためか、JCB加盟店にもかかわらず自分の店でデビットは使えないと思い込んでいたり、『J-Debit』と混同されているケースも見受けられます。今回に限った課題ではありませんが、ブランドデビットの認知向上に向けて、業界全体での取組み強化も必要かもしれません」(後藤氏)
自治体の期待としては、コスト削減と公平な販売機会の提供以外にも、「データの集積と分析」があるという。ここはビジネス寄りの話とも思えるが、自治体も決済データを軽視はしていない。国からの貴重な予算をできるだけ有効活用する責任があるからだ。
「カードは紙の商品券と違い、どのような属性の方が、どの地域、業種の店舗で使ったかを把握できます。こうした情報は、地域活性化のため補助していくべき対象を検討する際などに生かせると思います」(後藤氏)
千葉銀行では以前からクレジットカードの運用に際し、「地域優待サービス」を展開してきた。現在は、35社・約3,200店舗において、ポイント優待や割引が受けられる。この取組みと今回のスキームを併用することで、千葉市内での消費のさらなる喚起が期待できる。
「繰り返しになりますが、地域経済への貢献は地銀の使命。今回の『ちば得商品券』での採用は、デビットカードの新しい活用方法を提案できたと考えています」(尼野氏)
「ちば得商品券」におけるデビットカードは「社会実験」の位置付けにあり、施策全体に占める比重もまだ大きくない。しかし、ブランドデビットという、国内ではまだ黎明期にあるサービスの新たな可能性を示す試みとして、大いに注目していきたい。
(CardWave 2015年5・6月号掲載)
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