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【特集】CLOの“送客力”は本物か?~野村総合研究所編~(2014年9・10月号)
セグメントを絞り込み確実にリーチ
データ分析力とスマホの特性を活用
野村総合研究所(NRI)はセディナと共同で、2014年8月4日から10月31日までCLOサービス「セディナキャッシュバッククーポン」の実証実験を行っている。事前に同意を得たカード会員を対象に、属性情報や購買履歴などでセグメントし、最適なターゲット、タイミングで、スマートフォンにクーポンを配信する。CLOの一般的な特性である正確な効果測定に加え、NRIのデータ分析・活用のノウハウを駆使することで、新規顧客の獲得などターゲットを絞った展開ができる点が特長だ。

金融ソリューション事業本部
金融ソリューション事業二部
上級コンサルタント
宮居雅宣氏
今回の実験には、NRIとセディナ、モニター会員(1万人募集)、10社前後の加盟店(開始時点)が参加している。システムの主な構成要素は、セディナの会員情報データベース、NRIが提供するCLOのプラットフォームとスマートフォンアプリ。会員はスマートフォンに配信されるクーポンをチェックして利用したいクーポンにエントリー、加盟店でセディナのカードで決済すると、口座引き落としの翌月以降にキャッシュバックが適用されるという流れだ。
NRIではこれまでも、O2O(Online to Offline)の実験として、スマートフォンを活用したプッシュ型の情報配信を実施。購入履歴や位置情報に応じたクーポンを配信して、サービスの有効性とビジネスとしての可能性を探ってきた。
野村総合研究所 金融ソリューション事業本部 金融ソリューション事業二部 上級コンサルタントの宮居雅宣氏は、「実験を通じて、O2Oの優位性と同時に、課題も見えてきました。一つは対象の絞り込みが難しい点、もう一つは正確な効果測定ができないという点です」と話す。
「CLOでは、カードの利用履歴やスマホの情報などから対象の絞り込みができるように工夫しました。クーポンの利用時は、登録したカードで決済すれば記録が残ります。セグメントを絞って配信し、効果を確かめながらPDCA サイクル(Paln〈計画〉→ Do〈実行〉→ Check〈評価〉→ Act〈改善〉)で精度を高められる点が特長であり、新しさなのです」(宮居氏)

NRIが開発したCLOプラットフォームには、セディナが持つ会員の属性、決済履歴に加えて、NRIが定期的に行っている「1万人アンケート」などで蓄積した消費者動向、マーケティングデータが活用されている。このビッグデータと分析力を駆使し、加盟店に対象を絞り込むためのインターフェース(設定画面)を提供する。
例えば、新規客の獲得を目指すレストランが、「最寄りの駅から半径1キロ圏内に来ている女性で、外食が多いが自分の店には来たことがないカード会員」にアプローチしたいとする。この場合、専用サイトから、対象エリア、年齢層、性別などの属性を指定し、クーポン適用店舗、割引率と有効期限を添えて配信すれば、セグメントに入る会員のスマートフォンにクーポンが届く。
宮居氏によると、セグメントの設定は自由度が高く、いろいろな角度から抽出できるという。
「例えば、車に乗る人にガソリンスタンド(GS)のクーポンを配信すると、反応が良いのは当然。その一方、車やETCを常用する人とスポーツ用品店に通う人は親和性が高いことが、当社の調査から分かっています。これは、GSやカー用品店などが新規顧客獲得のアプローチをするときのヒントになるでしょう。こうした新しい掛け合わせは、実はたくさんあるのです」

「セディナキャッシュバッククーポン」のもう一つの特長は、国内初とされるCLOへのスマートフォンの本格導入だ。国内で導入されていた既存のCLOサービスは、Webの利用明細画面などでクーポンを通知するが、今回の実験ではスマートフォンにプッシュ式で配信する。
「CLOの難しさの一つは、クーポンの配信方法。現状は米国も含め、Webの明細画面を使う方法が多いのですが、当社で調査した結果、日本人のカード会員は月に1~2度しか明細を見ません。専用アプリをダウンロードする手間はあっても、いつも手にしているデバイスに直接届ける方が効果的だと考えたのです」(宮居氏)
スマートフォンを媒体にするもう一つのメリットは、位置情報が使える点。その効果は実証されていて、冒頭で触れたO2Oの実験でも、メールマガジンによる情報配信が購入に結びつく率は0.1%程度とされるが、ピンポイントでプッシュ配信した結果、13%に達したケースもあるという。
位置情報の活用について宮居氏は、「リアル店舗の場合、店舗の半径200メートル以内に入った人にクーポンを出す。スポーツイベントが開催されているときは、履歴からその分野に関心がありそうな会員をセグメントし、イベント会場に来ている人に近くの関連ショップを案内するなど、いろいろなアプローチがあり得ます。こうした機動性を考えても、CLOは“モバイルファースト”。スマートフォンを優先すべきです」と話す。
米国ではCLOのビジネスモデルは、加盟店からのアフィリエイト(成功報酬)が一般的。クーポンが送客を促し、実際にカード決済が行われた売上に対して数%のフィーを課し、それがCLOベンダーとカード会社の収益となる。ほかに考えられるビジネスモデルとして、カード会社へのシステム提供がある。
システム提供の形態としては、SIerとしてカード会社のために基幹システムから構築して提供する方法と、基幹システム部分は共通のプラットフォームとしてカード会社から利用料を得るASPモデルがある。NRIでは、実験を通してビジネスモデルも検討していくという。
サービスが本格展開する時期の計画として、加盟店のPOSデータを生かしたマーケティングが挙げられた。カード会社が持つ履歴は店舗レベルで、どんな商品が買われたかは把握できていない。
宮居氏は「POSデータの一部をご活用いただくことで、商品単位や売場単位でのクーポン配信も可能になります。商品単位になると半額などの思い切った手も打てますし、メーカーが割引原資を負担するキャンペーンのような形にも、柔軟に対応できます」と話す。この方法を実践するための特許も、すでに取得しているという。
将来展開のもう一つは、CLOプラットフォームを活用した広域展開だ。例えば、高速道路会社や地域金融機関などが地域振興に活用する方法が考えられる。温泉、名産品店、ゴルフ場やスキー場など当該地域の加盟店のクーポンを、興味を持ちそうな会員をセグメントして配信することで、地域の活性化にもつながっていく。
この先のCLOと決済ビジネスについて宮居氏は、「既に決済サービスは、『決済できる』というだけでは選ばれない時代になっています。しかし薄利多売の決済事業者が多くの原資負担をして特典を増やすことにも限界があります。加盟店の売上向上と会員へのベネフィット提供の両面に貢献し、データの活用方法やマーケティングのアドバイスができる総合サービス提供が重要です。データサイエンティストによる分析能力が高く、コンサルタントとしてマーケティング支援も提供できる当社にとって、CLOはもっとも力を発揮できる場の一つと自負しています」と結んだ。
(CardWave 2014年9・10月号掲載)
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